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【本】神社が氏子たちのためにつくる神棚飾りのアーカイブ|『東北の伝承切り紙』

2011年のASAHI ART FESTIVAL発表のなかに南三陸での「きりこプロジェクト」というものがあった。南三陸の地域に根付く、神棚飾りである「きりこ」の様式を真似て、まちの人たちの宝物や思い出などを切り紙で現しそれぞれの軒先に飾るアートプロジェクト。

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「きりこ」とは、南三陸の神社が氏子たちのために作る半紙で作る神棚飾りのことです。 私たちは2010年に、この「きりこ」の様式を真似て、まちの人たちの宝物や思い出などを切り紙で表し それぞれの軒先に飾るアートプロジェクトを行いました。 被災後、その絵柄を白いボードにして、それぞれの家が流失した跡地に、海へ向かって掲げました。 苦難を乗り越えようとがんばっておられるみなさんの姿を短い文で表し、それに添えました。 2013年夏、嵩上げ工事開始に伴い、南三陸さんさん商店街隣の南三陸ポータルセンター周辺にきりこボードを移設しました。

それから時を経て、東北に馴染みがでてきたここ1ヶ月ぐらい。伝承切り紙(上でいう「きりこ」のこと)についての本を見つけたので読んでみた。

東北の伝承切り紙―神を宿し神を招く (コロナ・ブックス)

東北の伝承切り紙―神を宿し神を招く (コロナ・ブックス)

 

伝承切り紙とは「正月飾りや神楽などの宗教儀礼に用いられるものとして残っている切り紙」のこと。その多くは、儀礼が終わると燃やされて消滅してしまうので、後世に残ることはほとんどなかったのだそう。著者が歩き見知った伝承切り紙の世界を、「目に見える形で残しておきたい」との想いから2012年に本として発行された。

3種類の伝承切り紙

伝承切り紙は「切り透かし」「御幣」「網飾り」と3種類に分けられる。「切り透かし」は、きりこプロジェクトに使われているように紙に模様を切り込み平面で飾るもの。「御幣」は神道の祭祀で用いられるもので2本の紙垂を竹などに挟んだもの。そして表紙の写真に使われている立体的な「網飾り」というのが、この本のなかで語られている”東北地方にしかない”伝承切り紙だ。

なかでも岩手県南部から宮城県にかけての旧伊達藩の範囲にしか存在しないそうで、民芸や手仕事の類には藩の奨励が大きく関わっているのだろうと実感する(その隣の南部藩では言わずもがな南部鉄器が盛んだったし、会津藩会津木綿や会津塗りなどさまざまな伝統工芸を輩出している)。

今も残る伝承切り紙

きりこプロジェクトの説明にもあるように、伝承切り紙は神社から氏子へ配られるもの。多いところでは500もの氏子に配るために年が明けると翌年の分をつくりはじめるのだそう。岩手県の大崎八幡神社では180軒ほどの氏子に、平均14種類ものオカザリ(切り紙の総称)を配布しており、その数は2500にも及ぶとのこと。

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冒頭で、東北学の後藤憲雄さんが震災後に民俗芸能が各地で復活したという話をしている。それは死者たちの鎮魂・供養、厄よけなどをテーマにしていたからなのだそう。そういえば「踊る阿呆に見る阿呆」の阿波踊りも、盆踊りだしお盆の踊りが終わった翌日は灯籠流しをして鎮魂をする。今度このエリアに行ったときには注視してみよう。あと、県ごとのくくりもおもしろいけど、藩ごとに歴史や芸能を紐解いていくのもおもしろいかもしれない。

日本民芸館で11月24日まで開催の「カンタと刺し子」も観に行きたいなあ。



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