Serendipity

睡眠と太陽とおいしいごはんがあればそれでしあわせ。ときどき本や映画の話。

【本】これを持って旅をしたくなる|『手仕事の日本』

おもしろい本が、さくさく読み進められる本かというとそういうわけでもないと思う。なんだかんだでずっとカバンに忍ばせつづけた本を読み終わったよ。

手仕事の日本 (岩波文庫)

手仕事の日本 (岩波文庫)

 

この本は先日行った「カンタと刺し子」の会場、日本民藝館初代館長で民藝運動の父・柳宗悦が20年かけてめぐった、昭和10年前後の日本における手仕事を次世代に伝えるために書き記した一冊。

 

日本を地方ごとにわけて、柳審美眼で選りすぐった後世において新たな発展を望む手仕事が掲載されている。戦争直前の日本の手仕事を語ったものなのだが、同時に悲しいかな戦争によって失われた多くの手仕事の遺書ともなっている。戦争当時本の草稿自体は災禍を逃れて無事だったのだが、ほぼ各ページに配置されている手仕事の小間絵についてはほとんど焼失してしまい担当した芹沢銈介は再度多くの絵を描き直したのだそう。

f:id:aypn74:20141213225806j:plain

小間絵。これを見るだけでも価値がある。

---

柳は「伝統は活きたものであって、そこにも創造と発展がなければならない」と書いており、ただ保存したり残しておくのではなく時代とともに変化していくべきものだと説いている。

私がなるほどなと思ったのは次の部分。

それではどんな性質の美しさを一番尊んだらよいのでしょうか。それは結局「健康な美しさ」ということに帰ってきます。どんな性質の美しさも、「健康」ということ以上の強みを有つことは出来ません。なぜかくも「健康さ」が尊いのでしょうか。それは自然が欲している一番素直な正当な状態であるからと答えてよいでありましょう。(p.235)

自然が欲している一番素直な状態、いい基準になりそう。糸井さんもほぼ日のなかで「健康な人に勝てると思わないほうがいい」という話をしていた(というのを以前別記事で書いた)。

f:id:aypn74:20141213225816j:plain

巻末には文書中の手仕事たちが地図に落とし込まれているものと、品物の索引が。読んで記憶していくというよりも、辞書のように時々引っ張りだしてはなるほどと唸るような本棚に忍ばせて置きたくなる一冊。また、冒頭で柳自身が「地方に旅をなさる時が合ったら、この本を鞄の一隅に入れて下さい。貴方がたの旅の良い友達となるでありましょう。」と発しているように旅のお供にも良さそうだ。

---

2015年は芹沢銈介生誕120周年だそうで、『柳宗悦と芹沢銈介』というピンポイントな展示会が、静岡市芹沢銈介美術館にて開催されることを知った。会期は5月まで。

f:id:aypn74:20141213232553p:plain

芹沢銈介生誕120年記念展
柳宗悦と芹沢銈介 ―美と暮らしがとけあう世界へ―

会期:2015年1月4日(日)~5月10日(日)
<休館日>毎週月曜日(1/12、4/27、5/4を除く)、1/13、2/12、5/7
会場:静岡市芹沢銈介美術館
時間:9:00〜16:30

 

関連記事